一人待つ紗那王の前に現れたのは、黄金の衣装に身を包み、辺りをはらう威厳に満ちた異形のもの。鞍馬天狗。
照明の加減ではあるのでしょう、金色に光る眼光の鋭さに身のすくむ思いです。演じているのは人であるはずなのにそこにいるのは人ではありませんでした。その登場により城跡の空気を異なる次元に一瞬にして変えてしまいました。ただただ圧倒されるばかりです。
紗那王に語りかける鞍馬天狗。中国の故事を話しているようですが…?
黄金の衣装は袖の一振りにもその豪華さにため息が洩れます。
紗那王と対峙する鞍馬天狗。今度は紗那王から長刀を受け取り、自ら手本となって武術を教えているようです。
登場時の眼光鋭き鞍馬天狗とは表情がまったく違います。紗那王を慈愛に満ちた眼差しでみつめる様子はまるで親のそれのようです。まったく同じ面の筈が少し目線を下げただけで一変するのには大変驚きました。
名残を惜しむように別れる二人。
物語が一つ終わりそして次の物語の始まりを感じさせる余韻のある終わり方でした。
それにしてもシテの方の一挙手一投足すべて目が離せず、鳥肌が立ちっぱなしでした。こんな舞台をみたのは久しぶりです。
実は今回150枚ほど写真を取りましたがその大部分が失敗でした。お能というとゆっくりとした動き、というイメージがありますが足を踏みしめるさま、長刀を振る様子、一瞬の方向転換など「動」の部分の動きが驚くほど素早くて追いきれず、ほとんどぶれてしまったのです。「静」と「動」のコントラスト、無駄な動きを極限までそぎ落とした簡素にして優美で大胆な表現に、古来からの日本人の美意識を感じた夢のような一夜でした
一つ残念なことがあります。実はこの日が近づくにつれ、拙ブログのアクセスが急に伸びました。以前に書いたこの薪能の記事を見にきていただいているようです。「松阪薪能」で検索すると私の書いた記事が上位でヒットします。つまり、それだけ情報が少ないということです。こんなに素晴らしい文化事業であるにもかかわらず、事前の情報発信がまだまた足りません。大変もったいないです。場内はほとんど松阪市民の方のようでした。
それにしても天候にも恵まれ素晴らしい薪能でした。来年も楽しみにしています。もちろんこのブログでもお知らせさせていただきます。
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