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八千代が一人旅に最適!?なワケ

四方山話

 もうすぐ3月が終わりますね。お城の桜もほころび出し、ライトアップも始まりました。いよいよ新学期です。今年はいつものようにはいきませんが、暗くなってもいけませんのでのんびり記事を書いてみます。少々お付き合いください。

 私が小学生のころ、山口百恵さんの歌った「いい日旅立ち」という曲が大ヒットしました。アリスのメンバーだった谷村新司さんが作った曲です。百恵さん他、谷村さんのセルフカバーはとても有名ですし、たくさんの人に歌い継がれている名曲ですのでほとんどの方がご存じだと思います。

雪解け間近の 北の空に向い 過ぎ去りし日々の夢を叫ぶとき

帰らぬ人達 熱い胸をよぎる せめて今日から一人きり旅に出る

ああ 日本のどこかに 私を待ってる人がいる

………

 この歌は旧国鉄のキャンペーンソングでした。深みのある歌声と郷愁を誘うメロディー、海岸線を走る特急列車…ととても印象的なCMがテレビで流れていて子供心に「いつか一人で旅をして、どこかで待っている人を探しに行こう」と思ったものです(笑)。当時小学生の私ですらそう感じたのですから言わずもがな、この「いい日旅立ちキャンペーン」は大成功だったのでしょう。

 とはいえ、誘客に成功したのは「電車(国鉄)に乗って旅に出る」ニーズを開拓したことが主であって、「一人旅ブーム」が来たというワケではなかったと記憶しています。私が旅館業に携わったのは20数年前ここに嫁いだ時からですが、その20年前ですら出張族は兎も角、純粋に観光目的の「一人旅」のお客様はそう多くはありませんでした。

 旅館業に就いたばかりの私に「ウォークイン(予約なしに当日直接宿に来て宿泊を求めるお客様)で一人の、特に女性はトラブルになることがままあるので気をつけなさい」と教えたのは義母である3代目の女将です。事実その数年後に一人の女性宿泊客に無銭飲食されたことがありました。(このお話はまたの機会に)とはいえトラブルらしいトラブルはそれ一度きりですし、そんなことがあっても「一人旅」への憧れが変わることがなかったのはこの曲のおかげです。

松阪城跡の桜

 このように一昔前は「(仕事以外での)一人旅には注意」という意識が業界全体にあったように思われます。無用なトラブルを避けたい、とのことだったのでしょうがそれ以外にもう一つ、受け入れる側からして「一人」が敬遠されがちなのは明確な理由がありました。

 当然ですが旅館やホテルの部屋には限りがあります。定員2人の部屋にはどう頑張ってもそれ以上は入りませんし、要望があるからと言ってすぐに客室数を増やせるものでもありません。ではどうするか。引き合いが多い日は高く売り、空いている日は安く売る、単純な話です。ネットで検索してみるとよくわかりますが、同じプランでも週末は料金が高く設定されているケースが多いです。週末や祝日、夏休み年末年始などのトップシーズンは価格設定を高くする。逆に少ないときは通常料金か少々値段を下げて売る。これはどこの旅館ホテルでもやっていることです。

 そしてまた、宿泊人数によっても値段が変わるのもみなさんご存じですよね。例えば3人まで泊まれる部屋があったとします。1万円で3人泊まったらその部屋は3万円で売れたことになります。2人だと2万円。1人だと1万円です。部屋そのものをひとつの商品と考えれば当然Maxの3万円で売りたいところ。ではどうするかというと1人当たりの単価を1万円以上に設定して、部屋の総額を3万円に近い金額で販売するのです。同じ部屋、同じ料理でも宿泊人数によって値段が違うのはそういう理由です。利益を確実にするために、売りたい時期はそもそも1人の受け入れをしないというところもあります。商売である以上、機会損失を避けるのは当然のこと。大きさが決まっている箱が売り物ですから、時期や人数を鑑み細かい料金調整をして利益を上げるのも大事な仕事です。

 ところが私が嫁いだ20数年前から八千代ではそういう売り方をしていませんでした。盆正月だろうが何人で泊まろうが一泊の値段は同じ。不思議に思って尋ねると返ってきた答えは明快でした。「うちは料理屋だから」。

 これを説明するには八千代の成り立ちを紐解かなければなりません。

 大正初期、初代の菊次郎はとても腕のいい職人だったそうです。それを買われて新町の旦那衆が「出資するから店を出せ」と料理屋を始めたのがことの起こりです。当時は今と違って外食できる料亭や料理屋も数えるほどでした。宴会となれば一次会が終われば座敷を変えて同じ店で二次会三次会ということも。パトロンでもあったお客様から「遠方から招いた客を泊まらせたい」「夜が更けたらそのまま休みたい」という要望があって宿屋の鑑札を取ったそうです。ですので八千代は旅館ではございますが、そも料理屋なのです。

大正9年の松阪公園(現松阪城跡)中央に「八千代料理店」の名

 商品が『部屋』であれば需要に合わせて価格が変動するのは何の不思議もありません。ですが八千代の商品は『料理』です。お部屋の値段は変わりません。時期や人数に左右されないのはそういう理由です。売り物である料理の違いが値段の異なり、実に単純明快なお話なのでした。

 しかし需要と供給のバランスとはいえ、同じプランなのに1人だとお高くなってしまうのは、なんとな~く居心地が悪くないですか?でも八千代なら大丈夫!同じ料理なら同じお値段同じ部屋、です。お一人旅も大歓迎。最適なワケ、ご理解いただけましたでしょうか?

 どこかで待ってる誰かを探しに行きたくなったら、荷物を詰めて電車に乗って。そんな日が早く戻ってくるといいなと思います。長々、ありがとうございました。

朝食は八千代自慢の大広間で(まさか!?)

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