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『グランメゾン★東京』に学ぶ感染症対策

 突然ですが皆様、去年の秋にTBSの日曜劇場で放映された『グランメゾン★東京』、ご覧になってましたか?木村拓哉さんや鈴木京香さんらが演じるフレンチシェフが世界一の三ツ星レストランを目指して奮闘するヒューマンドラマです。私は手塚とおるさんの出演するドラマはできるだけ観るようにしているので毎週とても楽しみにしていました。登場する料理も本当に美味しそうでしたよね。ところで。

 終了したドラマなので多少のネタバレはご容赦いただきたいのですが(これからご覧になる予定の方でネタバレは嫌!という方はそっとウインドウを閉じてください)その第9話でノロウイルスが取り上げられていました。印象的なエピソードでしたので覚えていらっしゃる方も多いと思います。

(ここから先ネタバレ含む)

日曜劇場 グランメゾン★東京

 お店で新しく扱う国産のワインの試飲をしているときにシェフの一人が倒れます。病院に行くと原因がノロウイルスによるものだとわかりました。具合の悪くなったシェフは試飲の前に新メニュー用の食材として仕入れた生ガキを口にしています。店からノロウイルスの食中毒が出たとなると、数日の営業停止は免れません。さあどうする?というのが大まかなあらすじです。

 美味しそうな殻付きのカキが画面に映ったとたん「ああ!今回はノロか…」と思った飲食業従事者は少なくないと思います。晩秋から春先にかけてノロウイルスは飲食店にとってはとても怖い存在です。ノロウイルスによる食中毒は、ウイルスに汚染されたカキなどの二枚貝を生もしくは加熱が不完全な状態で食べた場合におこります。また、汚染された食材を扱った調理器具や調理人の手指を介在して他の食材に二次的に感染しおこる場合もあります。これが「ノロウイルスによる食中毒」です。

浦村のカキ。食べ放題は鳥羽で。

 ノロウイルスに感染すると 「腹痛・下痢・吐き気・嘔吐・発熱」 などの症状が出ます。感染力が強いため、感染者の吐瀉物や排泄物の処理には非常に注意が必要です。適正に処理をしないと「ヒトヒト感染」をおこしてしまいます。加えてウイルスに感染した本人に症状が出ないため気が付かないうちに他者に感染させてしまうこと (不顕性感染)も あります 。これが「ノロウイルスによる感染症」です。厄介なことによくよく経路を調べてみないと原因が「食材」なのか「ヒトヒト感染」なのかがわかりません。(ノロウイルス等感染症については手ピカジェルでおなじみの健栄製薬様のサイトがわかり易いです。松阪に工場があるんですよ。)

 では、今回のピンチを「グランメゾン★東京」の面々は果たしてどう乗り越えたのでしょうか?

 発症者がシェフ一人であるため、医師からの保健所への通報は保留になりました。普通はそのシェフを医師の許可が下りるまで休ませ、ほかに症状が出た人がいなければそれで終わりです。でも、彼らの対応は違いました。敢えて店を休み保健所に検査をお願いし、該当する期間に来店したお客様には事情を話して体調に問題がないか尋ねてまわりました。結果、店の食材からはウイルスは検出されず、お客様にも発症者がいなかったため今回は倒れたシェフが通常の生活のなかで感染したのだろうという結論に至ります。食中毒ではなかったのです。

 お店を休んでいる間にスタッフ総出で店内を消毒しているシーンがありました。マスクと手袋を身に着け消毒薬を片手にキッチンや客席をピカピカに磨いています。「そこまで徹底的にするの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。そう、飲食店はそこまでするのです。

 しかし残念ながら、どんなに気を付けていても食中毒の発生はなくなりません。三重県はカキの名産地でもあるのでひと冬に一件や二件は「ノロウイルスによる食中毒が発生しました」と通知がきます。どんな内容かというと発生状況の概要や場所、原因食材、現在の状況に加えて必ずノロウイルスに対する注意喚起のPDFが入ります。調理従事者の健康管理、消毒や手洗いの徹底…大元の厚労省の通達やノロウイルスに有効な消毒薬のメーカーのパンフレットが添付されていることも。これらが県や市や組合などの関係各所から一斉に送られてくるのです。

 あれれ…?ちょっと待って。「ウイルス」「二次的感染」「ヒトヒト感染」 「不顕性感染」 「消毒」「保健所」「検査」「厚労省」…なんだか最近よく聞く単語が混じっていますね。今世界中で猛威を振るいつつある「新型コロナウイルス感染症」の話題で登場する言葉ばかりです。

 現在この未知の感染症により飲食業サービス業は大きなダメージを受けています。お客さんが来ない、予約のキャンセル、売上の激減…政府に金融対策や雇用対策を求める声は日々高まっています。しかし業界内でも「実店舗における感染症対策」への不安や疑問はあまり聞きません。何故なら私たちはよく知っているし、既に対処しているからです。

 特別なことは飛沫感染への対策くらいでしょうか。それに加えてスタッフの健康管理、食材や調理器具等々の衛生管理、館内清掃の徹底と換気、普段毎日繰り返していることを更に丁寧に毎日積み重ねていくだけです。

 目の前のお客様と目の前の一皿に誠実に向き合うこと。

 ピンチの時の飲食店は結局その原点に立ち返るしかないのかもしれません。木村さん演じる尾花シェフがそうであったように、です。

 いつか世の中が穏やかになって「ああ、美味しいご飯が食べたいなぁ」「大切な人とゆっくり旅行がしたいなぁ」そんなふんわりした気持ちになったとき、どうか日本を、三重を、松阪を、そして八千代を思い出していただけるとたいへん嬉しく思います。

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